2021/04/04

(NO.1261) 【コロコロほろ酔い日記-13】迷うことはない、本を読もう ・・・ 小山伸二

人類は、いま

21世紀の21番目の4月を人類は生きている。 

あたらしいタイプのウィルスとともに。 

 

まさか、こんなに人類が、いっせいにマスクをする時代が始まるなんて、だれも想像できなかったにちがいない、そんな今日を生きるぼくたちに、いま、必要なものは、なんだろうか。

 

美味しい水。

あるいは、コーヒー。

あるいは、いのちのスープなり、ご飯なり、野菜なり、肉だったりするのだろうか。

それとも、笑顔か。

 

さて、ぼくなら、「物語」が、「哲学」が、そして「詩」が必要なのではないだろうか。いまこそ、と、誰にも聴こえないくらいの、ちいさな声で呟きたい。

 

 

本は読めないものだから

そんな世界で、ひとりぼっちの夜は、本を読もう。

本をこよなく愛する世界中のひとと。

あるいは、ほんとうは、本を読むのが苦手なひと、とも。

 

 

「本は読めないものだから心配するな」と、詩人の管啓次郎が言った。

そして、

「迷う必要はない、きみは詩を読めばいい」とも。

(『本は読めないものだから心配するな』管啓次郎・左右社)

 

 

本を読んで、コーヒーを飲む。

そして、お酒もちょっぴり。

いつか、静かな声をだして、本の話もしよう。だれかさんに。

 

 

たとえば、文学。

遠い世界の、遠い時間を超えて、届けられる。

本は、厚い紙の束でもある。

文字や図像が印字された紙の束。

その束のことを、何百年ものあいだ、ぼくたちは「本」と呼んできたんだ。

 

本を、手のひらのうえに置いて、文字を読もう。

 

迷うことはない。

本を読むのが苦手なきみも。

 

つらいとき、切ないとき、淋しいとき、やりきれないときには、本を手にとって、この世界を生きていこう。

 

人類は、あるときに「ことば」を手に入れた。

目の前のことだけではない、ここではないどこかに連れっていってくれる「ことば」を手に入れた。

 

そのあと、ながい、年月が流れ、途方もない時代を超えて、「文字」を手に入れることになった。その「文字」を、刻み付ける洞穴や岩や石やパピルス、木の皮などに残すことで、世代を超えて、「声」を届ける術を知ることになる。

 

そして、「文字」はアーカイブとして、紙と出会い、本という設計を持つ構造物におさまることになって、21世紀の今日を迎えている。

 

迷うことはない。

つらいとき、切ないとき、淋しいとき、やりきれないときに、本を手にとって、この世界を生きのびよう。

 

***

小山伸二(おやま・しんじ)

詩人。小さな出版社・書肆梓(しょし・あずさ)代表。

詩集『さかまく髪のライオンになって』(書肆梓)、『きみの砦から世界は』(思潮社)、『コーヒーについてぼくと詩が語ること』(書肆梓)ほか。