人類は、いま
21世紀の21番目の4月を人類は生きている。
あたらしいタイプのウィルスとともに。
まさか、こんなに人類が、いっせいにマスクをする時代が始まるなんて、だれも想像できなかったにちがいない、そんな今日を生きるぼくたちに、いま、必要なものは、なんだろうか。
美味しい水。
あるいは、コーヒー。
あるいは、いのちのスープなり、ご飯なり、野菜なり、肉だったりするのだろうか。
それとも、笑顔か。
さて、ぼくなら、「物語」が、「哲学」が、そして「詩」が必要なのではないだろうか。いまこそ、と、誰にも聴こえないくらいの、ちいさな声で呟きたい。
本は読めないものだから
そんな世界で、ひとりぼっちの夜は、本を読もう。
本をこよなく愛する世界中のひとと。
あるいは、ほんとうは、本を読むのが苦手なひと、とも。
「本は読めないものだから心配するな」と、詩人の管啓次郎が言った。
そして、
「迷う必要はない、きみは詩を読めばいい」とも。
(『本は読めないものだから心配するな』管啓次郎・左右社)
本を読んで、コーヒーを飲む。
そして、お酒もちょっぴり。
いつか、静かな声をだして、本の話もしよう。だれかさんに。
たとえば、文学。
遠い世界の、遠い時間を超えて、届けられる。
本は、厚い紙の束でもある。
文字や図像が印字された紙の束。
その束のことを、何百年ものあいだ、ぼくたちは「本」と呼んできたんだ。
本を、手のひらのうえに置いて、文字を読もう。
迷うことはない。
本を読むのが苦手なきみも。
つらいとき、切ないとき、淋しいとき、やりきれないときには、本を手にとって、この世界を生きていこう。
人類は、あるときに「ことば」を手に入れた。
目の前のことだけではない、ここではないどこかに連れっていってくれる「ことば」を手に入れた。
そのあと、ながい、年月が流れ、途方もない時代を超えて、「文字」を手に入れることになった。その「文字」を、刻み付ける洞穴や岩や石やパピルス、木の皮などに残すことで、世代を超えて、「声」を届ける術を知ることになる。
そして、「文字」はアーカイブとして、紙と出会い、本という設計を持つ構造物におさまることになって、21世紀の今日を迎えている。
迷うことはない。
つらいとき、切ないとき、淋しいとき、やりきれないときに、本を手にとって、この世界を生きのびよう。
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小山伸二(おやま・しんじ)
詩人。小さな出版社・書肆梓(しょし・あずさ)代表。
詩集『さかまく髪のライオンになって』(書肆梓)、『きみの砦から世界は』(思潮社)、『コーヒーについてぼくと詩が語ること』(書肆梓)ほか。