2021/04/01

(NO.1260) ブラジルにはご用心   デコッパチ

 

「バクラウ 地図から消された村」。これほど怖い寓話もなかなかないと思う。2019年のカンヌ映画祭で審査員賞を受賞したブラジル映画。昨年の2月頃から予告編をyoutubeでみながら待ち焦がれたが、作品は待てども待てども海を越えてこない。あきらめかけた11月ごろ、ようやく数館で上映が始まった。

日本映画「七人の侍」を、ブラジルの北部の荒凉たる村で再現したような映画である。しかし、襲ってくるのが、食いつめた野武士ではなく、北米から来た白人至上主義者であること、その背後にブラジルの自治体が関係しているらしいことなど、話が進むほど、背筋が凍ってくる。 

近未来のブラジルの架空の自治体にある、架空の集落バクラウ。村の長老である老婆が亡くなり、孫のテレサ(ソニア・ブラガ)が彼女の葬式のために村に戻ってくる。水利権による自治体とのトラブルのせいか、上流のダムで水は止められている。テレサが乗ってきた、水を運ぶタンクローリー車には、いくつかの銃弾が撃ち込まれている。慌てて、子ども達がタオルや布で穴を塞ぐ。

テレサの祖母の葬式を機に、不穏な動きが次々と起こる。まずは村の電話回線がダウン。次に、グーグルマップから村が消える。そして、夜中に近くの農場から数十頭の馬が走り込んでくる。次々と謎めいた凄惨な事件が起きるが、序章に過ぎない。やがて、市長が村を訪れるが、村人との関係は相当ギクシャクしており、出迎える村人は一人もいない。

一方、村はずれの廃墟に謎の集団が集まり、着々と村への総攻撃を準備している。白人至上主義や狂信者達であり、どうやら米国からやってきたようだ。しかし、彼らは統制に欠けており、内部で諍いが絶えない。ようするに、プロではないのだ。よりいっそう謎めいたボス(ウド・キア。わたしはこの俳優のこれまでの出演作を知り、戦慄している)が、かろうじてまとめる。とても利己的でわがままな集団であり、崩壊寸前の雰囲気をたたえている。やがて、彼らは村への攻撃を始めるが、周到に準備していた村の組織的な反撃に会う。村には反政府ゲリラやなど、相当タフな方々がいたのだ。襲う相手を間違えてしまったのである。

村人たちの反撃は南米的で、復讐の仕方は魔術的、呪術的である。襲った側は心の底から後悔することになる。ラストは日本人や米国人には発想できない結末である。ハリウッド映画やアメコミ、特撮、クリストファー・ノーラン監督作品、日本のアニメなどと対極に位置する映画を観たくなったひとには、期待以上の収穫がもたらされる映画である。しかし、コールタールのような南米的ソースが染み込んだ心象を洗い流すために、時間がかかりそうだ。黒澤監督の「七人の侍」を3回くらいみなければならないであろう。プリミティブな毒に満ちた映画である。ブラジル映画にはご用心。


202141日 デコッパチ