人間は何歳から脳に知覚することができて記憶に残るのだろう。
乳児の時の記憶を明確に留めて置くことは不可能なことだが、
それでも驚異的な記憶の持ち主がいる。
作家の三島由紀夫は産まれた時の光景を鮮明に記憶している。
それは産湯に浸かった時のタライの木目の美しさを『仮面の告白』に書いている。
ロシアのトルストイは産道から憶えていたというから驚くばかりだ。
自身の記憶では1歳の時のことをぼんやりと憶えている。
写真屋で満1歳の記念写真を撮った日のことである。
しかしその前後の記憶はまったくない。
2歳の時に肺炎になり死の淵をさまよう。
3歳の時に滑り台から落下して気絶する。
4歳の時に池に落ちて溺れそうになる。
断片的だが憶えている。
過去の記憶の糸を手繰って行くと、
生かされた不思議と、生きている不思議を感じないではいられない。
08/師走/2025 山田 雄正