2025/10/06

(NO.1767) ぼくたちの「水俣」に出会う①  小山伸二

戦後日本の最大級の公害と言える「水俣病」。 

熊本県水俣市で「チッソ(現JNC)」の化学工場から排出されたメチル水銀化合物を含む工場排水が、水俣湾周辺の魚介類を汚染し、その魚介類を長期間、大量に食べた人々の間に発生した有機水銀中毒性の神経系疾患を引き起こした。 

世界を震撼させて「MINAMATA」。

その症状は、手足の感覚障害、運動失調、視力・聴力障害などが残り、重症化すると死にいたる。

さらに母親の体内にメチル水銀が入ることで胎児に障害が起きた「胎児性水俣病」に苦しんでいる患者もいる、いまなお進行形の公害病である。

そんな「水俣」に、ぼくはこの数年、通っている。

大学や専門学校で食文化を教えているなかで、この列島の豊かな海の惠みについて語ってきた10年近く。

列島近海には豊かな漁場がひろがり、その恩恵を享受した歴史。しかし、その自然がときおり、そして繰り返し猛威を奮って、すべてを人から奪い去りもした列島の歴史。

その自然災害とのある種の共生の歴史を辿りながら、さらに人災とも言える、あるいは犯罪的もいえる行為や、不作為によって、汚された海もまた、この列島の歴史のなかにあることをぼくたちは知らないわけではない。

直近では原発事故のFUKUSHIMA。そして、MINAMATA

 

さらには、現在進行形でつづく国土開発や、都市集中と過疎化によってもたらされた森の荒廃、土砂の河川、海への流出。豊かな日本の漁場は、そんな環境危機に、いまなお晒され続けている。

そんな現状のなか、この11月に水俣市を含む、不知火海(八代海)沿岸地域の農業・水産業の生産者たちは連携して、「テッラマードレ・ジャパン2025 in 水俣」というイタリアに本部を持つスローフード協会主催のイベントが開催される。

ぼくもこのイベントに、自分が所属している国立地球環境学研究所の一員として、11月に参加することに。

明治維新の殖産興業からはじまり、とくに戦後の日本の高度経済成長によって加速した環境の激変のつけが、この「水俣」に象徴的に集約されてもいる。

それだけに、だれもが当事者でもあるのだ。

便利な高速道路や鉄道網の恩恵を受けてきたぼくたちだからこそ、これからの持続可能な世界、将来世代に受け渡していける食文化の豊かさを考えるために、自分ごとにするためにも、ぼくは、このイベントに参加する。

暗く、辛い過去にきちんと向き合うことで、作り上げる明るい未来。

きれいごとかもしれないけれど、いまの時代を生きるぼくたちは、なけなしの希望をかきあつめて、若い仲間たちとこのイベントを盛り上げようと思います。

https://slowfood-nippon.jp/tmj2025delegate/

 

2025年10月6日   小山伸二