昨年の4月からフリーランスになって以来、旅から旅への生活が始まっている。
といっても、フーテンの寅さんみたいにはなれないが。
ぼくの旅は、基本的に、なにか目的がある旅だ。
たとえば、自分の出版社の本を売るためのトークイベントだったり、所属しているチームのミッション(窒素循環をめぐる環境問題を解決するためのチーム!)のための、いわば、「出張」の旅でもある。
そんなぼくの旅のスタイルに対して、いわゆる観光旅行を愛する家人からはいつも、批判めいたヤジが飛ぶ。ほんとうの旅の醍醐味は、なんの目的のない、ただひたら旅を楽しむことにあるのではないかと。
確かに目的のない、旅そのものが目的の旅は素敵かもしれないが、貧乏性なのか、あるいは本来、出不精のぼくは、それでも面倒臭い旅に出かけるために、あえて自分で「用事」を作って、やっぱり旅に出るのをやめるという選択肢のないところまで自分を追い詰めて、いやいや旅に出るという、いささか変態的な展開を用意する癖があるみたいだ。
昨年もそうやって、北海道の釧路から屈斜路湖、東北は山形の鶴岡、月山から山形・蔵王、岩手の花巻・早池峰、京都、大阪、熊本・水俣、岐阜の谷汲、滋賀の日野の旅をつづけ、今年になってからも、水俣、福島の南相馬、京都、それからの島根奥出雲の飯南町、兵庫は神戸、夙川、大阪と「用事」のある旅は続いている。
だいたい、どこに行くのでも、自分の出版社・書肆梓 Shoshi Azusaの出版物と、「クラウドナインコーヒー」のコーヒーをいっぱいカバンに詰め込んで、トークイベントと称する「行商」さんをやっているわけだ。
もちろんぼくだって、なんの予定も用事もない、ただの旅に憧れもする。
それでも、だれかと会う約束をし、その約束のさきには、はじめて会う人たちもいてくれて、出かける前は億劫だったり、お金の心配をしたり、ほんとうにイベントに人が集まるのかどうか、やきもきしたりと、まったくもって気の休まることはないのだが、いざ、旅に出かけ、自分で決めたミッションをこなすなか、やっぱりここに来てよかった、旅に出てよかった、と毎回毎回、そう思えるのだ。
というわけで、ぼくの旅のスタイルは変えられない。
別に仕事が好きなわけじゃない。
ほんとうは何もしないで、お酒を飲んで家でごろごろするのが一番好きなはずなんだけれど。
それでも、自分の作った本や、焙煎したコーヒーでひとが喜んでくれたら、そんな嬉しいことはない、という思いが、ささやかなエンジンになって、ぼくを旅に駆り立ててくれる。
さて、6月。
来週には、山形、鶴岡に行って、9月に予定している月山登山の打ち合わせと、その前後に企画しているトークイベントの仕込みを。
再来週には、北海道の弟子屈(てしかが)町で渓流釣りをする人たちにコーヒーを振る舞い、もれなくコーヒーの本も販売するというイベントに参加。
というわけで、ぼくの旅は、まだまだ続くのでした。
2025年6月2日 小山 伸二