2020/07/28

(NO.1223) 火打ち石 デコッパチ

最近、4日に1回くらいは、最寄りの駅まで自転車を利用している。歩くと15分くらいの距離なのだが、一度使うとやめられないのである。

朝が弱く、いつもギリギリまで寝ている私であるが、こればかりは、全然治らない。もしも、「起きてから、ドアを出るまでの時間」選手権というものあったら、ものすごく上位の成績になるのではないだろうか。

最近は、「伝説の強制目覚まし」を購入する可能性も考えている。絶対に寝過ごせない、定刻が重要な鉄道職員さんなどが使っているという。仕組みは、空気袋、ホース、送風機、制御タイマーで構成され、敷いた空気袋を膨らませて、身体を持ち上げて起こす、というもの。デザインはかなり武骨。デザインというものを見事に無視している。世の中、いろいろなものがあるものだ。高度資本主義である。しかし、値段がややはるうえに、場所的にかなりのスペースを取るため、まだ決断には至らない。

二つほど隣の駅の公共駐輪場は、国際救助隊サンダーバードの基地のように、ボタンを押すと自転車が地下に潜っていく完全無人全自動式である。一方、最寄りの駅の駐輪場は、倉庫みたいなところに、かなり朝早い時間から夜遅くまで、係りのおじさまたちが常駐している。しかし、朝、自転車を預けるとき、「行ってらっしゃい」という言葉を、毎回もらえる。我が家では、数ヶ月、数年、十数年聞いたことがないフレーズである。最初は何を言われているのかすぐに反応できなかった。

また、あるときには、なんと火打ち石で、カチカチしてくれるではないか。火打ち石? 私には一生無縁のものであるとばかり思っていた。なかなか清々しいものである。区の政策なのだろうか、はたまた、係りのかたの単なる気まぐれなのか。

火打ち石をネット検索すると、「火おこし道具として、江戸時代に一般にも普及。古くから厄除け縁起担ぎとしての使い道もある。 縁起の悪いことや危険な目に遭わないようにと今でも伝統を重んじる職業の人・芸能人・落語家・花柳界の人やとび職・大工など危険な業務に従事する人に愛用されています。」などとある。江戸時代前は相当な貴重品であったようだ。

残念ながら、私は、とび職でも落語家でも芸能人でもない。しかし、世の中、いろいろなことがあるし、何が起きるかわからないといえばわからない職場でもあることから、結構嬉しいものであった。できたら着物姿の女性から火打ち石をカチカチして欲しいかもしれない、などと思うが、馬鹿な妄想である。つける薬がない。しかしながら、無人の完全機械式全自動でないからこそ、予想もしていなかった、悪くない、小さくも火花が出るような出来事が起きることもあるのである。

ちなみに駐輪代は1日100円である。月極契約はないんですか、と係りのかたに聞くと、空きが出るまでは2-3年ほど待たないとならないという。あまりに愕然として、次の言葉がなくなってしまう。訊かれた方も、言いにくそうなであるが、この問答の後に幾度も訪れたであろう深い沈黙にも慣れているようだ。まあ、こればかりはしょうがない。この国の通勤人を取り巻く環境は、なかなかせつない。テキサス州の片田舎の高校生がクルマで通学していることを思ってもしょうがないのだ。とりあえずは、朝、起きられるための解決策をもう少しは真剣に考えないといけない。友人がしきりに薦めるコーヒー店のコーヒー豆を購入し、朝の楽しみをひとつ作る、上記の電車運転手用の強制目覚ましを使う、目覚まし音楽にローリングストーンズの曲をかける、など。

一方、駐輪場における、自転車の置かれている状況は、自転車にとって決してコンフォータブルなものではなく、けっこう過酷な状況である。よくも車輪が曲がらないものであると不思議でならない。帰宅時に取りに行くと、ブレーキの効き具合が変わっていることもよくあり、大波に揺られた船倉で夜を明かした旅人のように、自転車はぐったりしているように見える。

 

2020年7月27日 デコッパチ