2020/05/30

(NO.1217) 【コロコロほろ酔い日記-9】 新しい本づくり 小山伸二

感染。集団。在宅。自粛。三密。

 

ちょっとまえなら、こんな熟語がとくべつな感情に結びつくとは思いもしなかった

 

そんな日々を生きているぼくたちの5月も終わろうとしている

 

リモート。遠隔。隔靴掻痒。

 

平日の昼間にずっと自宅にこもる不思議。いきおい、部屋の本棚に手がのびる。

 

あっは、ぷふい。

 

そう呟いたのは埴谷雄高の『死霊』の登場人物だっ

 

そんなふうに、昔、夢中になった小説が急によみがえったり

 

平日の午後、りとめもない時間が、在宅の部屋をふわふわと過ぎていく

 

そんな日々のなか、一冊の本を仕上げるためにパソコンに向かっていた。

 

この二十年のあいだ、断続的に書きついできた、コーヒーをめぐる文章を一冊の本にまとめようと思い立ったのだ。

 

コーヒーを通して、文化を、詩を、世界を、戦争を考えて来た文章を、この時代の読者に届けるため

 

そのためにいちから原稿を見直してみようと、毎日、時間を決めて原稿に手を入れることにした。

 

コーヒーから世界につながる線をたどっていくうちに、楽しい道草のようにして、資料を引っ張り出しては読みふけり、また原稿に戻るという生活が続いた。

 

世界的な疫病の時代

 

こんな日々がやって来ると誰も思わなかっただろう

 

感染症をめぐるニュースが、皮肉にも世界をひとつにしている時代に、ぼくは、東の中世に突如、生まれたコーヒーという文化現象のこと頭がいっぱいになっていった。

 

コーヒーを語ることは、ぼくにとっては、世界を語ることであり、イスラームを考えることでもあり、カフェ的な空間を考えることであり、なによりも詩を、映画を思い描くことでもあった。

 

せっかくだから、いままでのどんなコーヒー本とも違うものにしようと思う。

 

コーヒー好きのみなさん、どうぞ、お楽しみに。

 

 

2020年5月30日  小山伸二