2012/01/30

(NO.413) スカイツリーと竹

昨年末に截金砂子(きりかねすなご)作家としては日本で最も著名な月岡裕二先生の上野のアトリエを訪問した。截金(切金または細金ともいう)とは、貼り合わせた金箔や銀箔を竹刀でミリ単位(時にはそれ以下)の幅に細く切り、仏像や仏画を装飾する技術で、平安時代に 中国から日本に到来し、その後日本独特の発展を遂げた。

先生の現在の仕事としては、たとえば目黒の祐天寺で昨年見つかった、徳川秀忠室、江・崇源院の宮殿(くうでん、いわゆる厨子)の修復や、日本画家や書道家が使う和紙などに砂子や截金を蒔く仕事があり、毎年日展にもご自分の截金砂子の作品を出品しておられる。

しかしこういった日本を代表する工芸作家から聞こえてくるのは、伝統工芸を作るのに欠かせない材料や道具を供給してきたお店の廃業や高齢化である。

去年日本画家の間で「大事件」となったのは、三千本(一頭の牛から三千本の棒状の膠が取れることからそう呼ぶ)と言われる日本画に欠かせない最高級の膠(にかわ)を作っていた清惠商店という唯一の業者さんが廃業したというニュースだった。そういった膠を作っていた業者さんが全国で一店だけだったことは驚きである。膠の耐用年数は3-5年といわれているので、月岡先生を含めて良心的な作家は清恵商店の廃業に伴い三千本を買い占めるようなことはしなかった。やっと別の業者が新しい三千本作ることに成功したらしいが、日本画家の間では、まだ誰もが使うのを躊躇していると聞く。

現在の月岡先生の悩みは、清惠商店の廃業とともに同じころに姿を消した上野の竹屋さんの代わりを見つけることである。その竹屋さんはスカイツリーの立地にあった。それがあるとき電話すると、スカイツリー建築に伴い立ち退きせざるを得なくなり、廃業しましたとのこと。截金を始め、金箔を扱う仕事は、金が同じ金属や手の脂を嫌うので、竹が最良の刀となる。竹の材質が悪いと毛羽立って箔を傷つける。また、すぐ切れなくなるのでその都度研ぐ必要があり、研ぎを続けて小さくなりすぎると新しい竹で作らなければならない。上野は竹屋さんをはじめとするそういった材料屋さんや職人さんが多く住んでいる町でもあった。それがどんどん変わっていく。

先日見た映画『Always 三丁目の夕日』最新作の時代設定は東京オリンピック開幕で、オリンピックとともに東京タワーは日本の戦後の復興と発展の象徴であった。

今回のスカイツリー建築に対して、ちょっと斜に構えてしまうのは、自分が年を取ったからなのか、日本の工芸史を研究しているからなのかわからない。しかし、新しいものがすべていいとは思えなくなっている21世紀の自分がいる。


平成24年1月30日(月)    牛津ヒルダ

(画像)

2010年新工藝展 文部科学大臣賞受賞 月岡裕二作 截金砂子彩箔『動』 新工藝展HPより転写