バブルが弾けて以降、銀座のネオンとはすっかり縁が切れてしまったが、
それとは逆に、安価な居酒屋との縁が深まり、今では常連の酔客となってしまった。
門前仲町から木場界隈の数ある居酒屋の暖簾を潜ってみたが、
結局は、地下鉄木場駅前の『東屋』に落ち着いた。
二卓のデーブルとコの字のカウンターだけの店で、20人ほどで満席となる居酒屋である。
そんな店の一押しが牛煮込みである。
山盛りのきざみ葱をのせて、七味を振りかけて食する。
戦後間もない頃から注ぎ足しながら煮込み続けているその味は絶品である。
狂牛病の騒ぎの時には、さすがに牛の肉は敬遠したものだが、常連客はなんら問題にすることもなく、
牛煮込みを注文してはその味を堪能していた。酔っ払えば狂牛病でなくても歩行困難になる訳で、
病気の感染を怖れて食べることをためらうような、そんな野暮な客は一人もいなかった。
夏のこの季節は、冷えたビールに枝豆の組み合わせの注文が一番多い。
まずは枝豆を指でピッと弾いて口に放り込む。
枝豆の青い香りが口いっぱいに広がる。
そこを逃さずビールを一気に喉に流し込めば、
「うひぃ~、たまらねぇ~」と誰もが歓喜の一声を上げてしまうものだ。
この一瞬のために、昼頃からはお茶やコーヒーなど、水気のものは一切飲まずに我慢していたのだ。
ビールは一杯目で一気に絶頂感に達してしまうので、頃合いの良いところで焼酎にしている。
夏は焼酎のロックが好ましい。
酒が変われば肴も変わる。
葱ぬた、薩摩揚げ、イカの丸焼きなどが、焼酎との相性が良い。
呑むものが焼酎に変わると、話題も変わって深刻で濃厚となる。
「今度の会社の方針だけどな、あれはどうしても納得がいかないんだ」
「・・だがな、ここは我慢のしどころじゃないのか」
アルコールの度数が高まると、話は脂ぎって意味不明となる。
「やっぱ男はよ、六分の侠気と四分の熱じゃねぇのか・・なっ!」
そろそろお開きの時間が来たようです。
『枝豆や 三寸飛んで口に入る」 正岡子規
29/文月/2010年 山田 雄正